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「矯正治療=矯正専門歯科で行うもの」であった時代から、「一般歯科でもできる矯正治療」へと急速に時代が変化しています。矯正治療を受けられる歯科医院の選択肢が増えたことは非常に良いことだと思いますが、それに伴う弊害もあります。セミナーを受講して得た営業トークの台本とマニュアルを駆使しあたかも矯正治療の名医のように錯覚させ、安易な矯正治療を行ってしまうことによるトラブルやセカンドオピニオンも急増しています。
AIやデジタルというと聞こえは良いですが、最先端の設備は治療のサポートであり目的ではないことを患者側も理解する必要があるでしょう。
子供の矯正治療で最も難しく、時間のかかる治療が「埋伏歯の矯正治療」です。ほとんどの埋伏歯の治療でインビザラインなどのマウスピース矯正では改善できないため、従来から行われている治療方法できちんと治す知識と経験が必要不可欠です。埋伏歯の矯正治療の紹介を通じて、当院の専門性を少しでも感じていただけると幸いです。
埋伏歯(まいふくし)とは、歯の頭の全てまたは一部が顎の骨や歯肉の中に埋まって出ていない歯のことをいいます。親知らずが埋まってしまっていることや半分だけ埋まっている状態をそれぞれ「埋伏」・「半埋伏」と呼ぶことからも言葉自体は耳にされたことがあるかもしれません。子供の乳歯から永久歯へと移行する過程で、本来であれば生えてこないといけない歯が埋まってしまい出てこれないことがあります。そのような状態を「永久歯が埋伏」していると表現しています。後述しますが埋伏は経年的なレントゲンでの変化を見極める必要があり、その場で「埋伏」と確定診断できる場合もあれば、「埋伏傾向」があると判断し変化を経過観察していく場合があります。
永久歯が正常な位置からずれて生えてくる状態のことを異所萌出と言います。通常であれば永久歯は顎骨の中で成長し適切な時期に歯肉を突き破って生えてきますが、異所萌出ではその位置が本来出てくる場所からずれて生えてしまうせいで歯並びの問題や前後の乳歯や永久歯を吸収してしまうことがあります。異所萌出は歯が生えてきてはいるので埋伏とは異なるのですが、異所萌出が起こる前段階では「埋伏」していると判断できることも多く、「異所萌出」と「埋伏」は同じような状況を示すこともあります。
顎の大きさ、歯の大きさ、歯数の違いなどにより新しい歯が生えてくるスペースがないために起こる場合があります。先天的なスペース不足の場合もあれば、むし歯や外傷にて乳歯が早期に抜けてしまうことによりスペース不足が引き起こされる場合があります。
歯が生える前に顎の中に埋まっている状態を歯胚と呼びます。通常歯胚は生える方向にむいて形成されるのですが、歯胚の向きがいがんで形成されてしまうと、歯が正しい方向に向かってすすんでいかず埋伏や異所萌出を引き起こす場合があります。
過剰歯や腫瘍などの異物が歯胚の近くに存在している場合にその過剰歯などが原因で永久歯が埋伏してしまうことがあります。萌出経路にある場合はもちろんですが、含歯性嚢胞などの病変を認める場合にはその異物の存在により歯胚があらぬ方向へ追いやられてしまう場合もあります。
外傷やむし歯などが原因で歯胚の周囲に感染が起こると、歯胚がそれをさけるように移動してしまい埋伏や異所萌出の原因となってしまう場合があります。
歯茎が分厚い場合、永久歯がもともともっている生える力では歯茎を突き破れず埋伏してしまう場合があります。
歯の根っこの形態異常があり、湾曲が強いと自然に萌出が難しい場合があります。
一つ目の大きなポイントとしてあげられるのが左右差です。反対側がすでに生えてきているのにもう反対側が埋まっている場合は埋伏している可能性があります。これは左右両方が埋伏する可能性が比較的低いことから判断する方法ですので、稀に両側の歯が埋伏している場合はこのポイントでは埋伏歯の診断はできないため注意が必要です。
永久歯には一般的に生える年齢が決まっています。もちろん個人差があり一概には言えないのですが、6歳で生えるはずの6歳臼歯が8歳になっても生えてきていないと、単純に生え変わりが遅いだけではなく何か問題が起きている可能性もあるので要注意となります。
もう一つのポイントが歯の形成度合いです。歯の頭が先に形成され、その後歯の根っこが順番にできていきます。その根っこができる過程で歯の萌出力(歯がはえる力)が生じるので、歯の根っこがほぼ完成しているのに埋まっている歯は自然と生えてこれないことが多く、牽引処置が必要となることがあります。
左の写真のように、歯の根っこがまだできていない場合は生え変わりがゆっくりであるだけで「埋伏していない」と判断できることが多く、右の写真のように、歯の根っこの形成が起こっているのに埋まっている場合は「埋伏している」と判断することが多いです。歯の形成度合いは外からの見た目ではわからないのでレントゲン写真を撮る必要があります。また時間経過とともに歯の位置変化が起こっているかも重要なポイントとなりますので、定期的なレントゲン写真撮影を行い経過をみていくことが大切です。
上記①から③の診断のポイントは非常に大切ですが、CTを撮影したとしても埋伏と確定診断することが難しいことがあります。その場合は自然萌出の可能性もあるため、経過観察することが多いです。半年や1年など経過観察時に再度レントゲン撮影を行い、明らかな位置変化があれば萌出傾向があるとしてそのまま経過観察を続けることもありますが、変化を認めない場合は「埋伏している」と診断することが多いです。下の例の場合1年間で赤矢印の歯はきちんと生えましたが、青矢印の歯は位置が変化しておらず「埋伏歯」と診断します。
過剰歯や腫瘍などの異物が、埋まっている歯の近くに存在している場合は注意が必要です。異物があると必ず「埋伏」するわけではないですが、通常よりも「埋伏」のリスクが高まります。特に上顎の奥歯などレントゲンでは構造物が重なり不鮮明になってしまい異物の存在がわかりにくいことがあるため、レントゲンだけでなくCT撮影を行い異物の存在を確認する必要が出てきます。
歯の根っこの形態異常があり、湾曲が強いと自然に萌出が難しい場合があります。釣り針のような形で歯根の先が引っ掛かってしまう場合や、根が末広がりに広がってしまい歯が生える方向に自然にすすめない場合は「埋伏している」と判断する一つの目安となります。
生えてきていない歯胚の深さや、歯の上に歯槽骨が残っているのかがポイントとなります。埋伏歯の診断のポイント①~⑥のどれかと合わせて判断しますが、左側のように埋まっている位置が浅く歯の上に歯槽骨も残っていないようであれば自然萌出が期待できますが、右側のように深い位置に埋まっており歯槽骨も上に残っているようであれば自然萌出は期待できないこともあり「埋伏歯」と診断することとなります。