2024.10.01
ヘッドギアとは、奥歯にずれがある方や上顎前突の方に使用する装置です。インプラントアンカーが出現するまでは大人も使用することも一般的でしたが、現在は子供がメインに使用する装置となります。
以前のブログにも記載しましたが、2020年の矯正雑誌に私が執筆したヘッドギアに関する論文が掲載されその年の論文賞を受賞しました。2021年の日本矯正歯科学会にてパシフィコ横浜の国立大ホールという大舞台にて、論文賞の表彰式があり、貴重な経験をさせていただきました。
論文執筆の中でかなりの数のヘッドギアの論文を読んでおり、ヘッドギアとともに歯科医師人生を歩んできたと言っても過言ではありません。
今回はヘッドギアの効果について、少し専門的に論文を紹介しながら説明できたらと思います。
ちなみに私の執筆した論文は「混合歯列期におけるヘッドギアの使用による、上顎小臼歯歯胚への間接的影響」というテーマの英語論文です。
OrthodonticWaves, Volume79, Issue4, December2020
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13440241.2020.1845587
ヘッドギアは口の中に入れる部分と、口の外に出る部分から構成されています。
口の中には、バンドと呼ばれる金属輪っかが上の奥歯の第一大臼歯という歯に接着剤に固定されます。
そのバンドに、インナーボウと呼ばれる金属を挿入して使用します。
インナーボウを後方へ牽引して効果を発揮しますが、インナーボウをずっと手で押さえつけておくことはできないので、ネックストラップやヘッドキャップを使用して後方へ牽引します。
歯科矯正学(医歯薬出版)には
①上顎複合体の前方成長抑制
②上顎大臼歯の遠心移動
③上顎大臼歯の圧下・挺出
と書かれています。
基本的には出っ歯タイプの方に使用し、上顎骨自体が成長しにくいように①の上顎の前方への成長抑制を行うことや、②の奥歯のずれを是正し奥歯の位置関係を整えることが治療目的のメインとなることが多いです。
2015 Jul;85(4):657-64. doi: 10.2319/060114-392.1. Epub 2014 Sep 5.
Skeletal and dental effects of molar distalization using a modified palatal anchorage plate in adolescents
Noor Laith Sa’aed 1, Chong Ook Park 2, Mohamed Bayome 3, Jae Hyun Park 4, YoonJi Kim 5, Yoon-Ah Kook 6
スケレタルアンカレッジ(インプラントアンカー)とヘッドギアを比較した論文ですが、どちらの装置をしようしても上顎第一大臼歯は遠心移動が達成されたとなっています。
2015年の論文ですが、このころはインプラントアンカーが非常に普及しだしてきている時期でこのような論文がかなり多かった印象があります。ヘッドギアは半世紀以上前からある装置ですので、新しい装置と古い装置の比較はやはり大切であると思います。
2010 Jul;80(4):454-60. doi: 10.2319/100509-555.1.
Early headgear effect on the eruption pattern of maxillary second molars
ヘッドギアの効果についてではなく、ヘッドギアにより第一大臼歯が遠心移動するため、奥に追いやられた第二大臼歯がどのように影響を受けるのかという論文です。
第二大臼歯の生えてくるのが遅くなることはあるが、第二大臼歯の萌出には影響がないという結果になっています。
これは上顎骨の奥行きもきちんと成長していくことによる影響だと考えられています。
ただし、これは海外の論文であり、日本人は上顎骨の奥行きが少なく骨量も少ないため、ヘッドギアを使用することにより上顎第二大臼歯が生えてこれなくなってしまうこともあるため注意が必要です。またこの論文では2次元的なレントゲンで研究がおこなわれているため、CTなど三次元的な研究を行えればより明確になるだろうと絞められています。
2007 Sep;77(5):857-63. doi: 10.2319/042806-179.
Treatment and posttreatment changes with combined headgear therapy
ヘッドギアの使用により、直接力を加えている第一大臼歯だけでなく、第二小臼歯や第二大臼歯も遠心に移動する。2年後には遠心移動した歯牙はすべて近心へ移動するが、ヘッドギアをする前よりは遠心に位置すると報告されています。
ヘッドギアにより直接力をかけてない歯牙まで歯が遠心に動くというのは非常に面白い変化です。矯正治療はこのようなことが往々にして起こります。直接的な影響だけでなく間接的な影響も考えて対応していかなければならないため非常に複雑です。
Orthodontic Waves Volume 79, 2020 – Issue 4
Simultaneous distal movement of the maxillary first and second premolars can be achieved by distal movement of the maxillary first molar using a headgear Junichi Miyano,Noriaki Kawanabe,Atsushi Fujishiro,Ryuzo Kanomi &Hiroshi Kamioka
私の論文となります。
ヘッドギアの使用により直接的な第一大臼歯の遠心移動を行うと、間接的に第一小臼歯と第二小臼歯も遠心に移動するという結果になりした。論文考察②の締めにあったように、この論文はCTを使用し3次元で計測している点が今までの研究と大きく異なる点になります。またヘッドギアの使用による影響が2つ前に生えてない歯牙にも影響を与えるというのみ非常に面白い結果となったと思っています。
矯正器具の中でも、圧倒的に私はヘッドギアについて勉強してきました。
多くの先生が矯正の中でも得意な装置は異なると思いますので、ご相談される場合はそのような視点を持ってお話を聞かれるのも良いと思います。
お子さんの生え変わりや歯並びのことなど、ご不安な点や、気になる点があれば一度ご相談ください。
みやの矯正・小児歯科クリニック
大阪府茨木市別院町4-15 別院町・掛谷第6ビル
みやの矯正・小児歯科クリニック(大阪・茨木)
院長宮野 純一Junichi Miyano